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不動産コンサルタント 倉 橋 レ ポ ー ト 2009年6月号
         
 
取り込み詐欺! 巧妙な手口 (15)

「それって、信じられないな」倉橋は、篠原弁護士から伝えられた相手方からの第1回目の和解金額を聞いて愕然とした。「300万円ですか」
「ええ、かなり強気の提示です」篠原弁護士も、期待はずれの結果に落胆していた。「こちらの2億5000万円の提示に対してです」
「ま、相手方からすれば、当事者ではないから、そんな金額なんだろうね」倉橋は、相手方の理論も分からなくはなかった。「相手方からすれば、中岡不動産から、この物件の売買を依頼されて信託業務を行っているという立場だからね」
「それよりも、同席した例のこの物件に高額な抵当権をつけて融資をしているノンバンクの社長というのが出てきて、この裁判を続けるなら、山田側の相続人全員に対して損害賠償請求訴訟を起こすと息巻いていました」淡々と篠原弁護士は倉橋に言った。「彼ら、本気のようでした」
「で、買主のファンドは来てなかった?」
「多分、そのような人物と思える人も同席していましたが、黙って成り行きを見守るつもりのようです」

今回のケースでは、第三者に所有権が移転された段階で、そもそも負け戦なのである。
土地を取り戻そうにも、騙し取られた金銭を取り戻そうにも、当事者である権藤は、破産したあと亡くなってしまったのである。

「これは、長引かせると山田家にとって致命傷になりかねないな」この手の金融筋の連中は、自らの利益の為なら手段を選ばないことを倉橋は知っていた。「ただ、相手方も、額は少ないにしても、和解案を持ってきている所をみると、早期な解決を望んでいる訳だから、妙な手口を打たれる前に和解で決着をつけるほうがいいだろうね」

その後、山田を含めてミーティングを繰り返し、和解金の提示案をいくつか策定した。
裁判所で和解の回を重ねる内、相手方もかなり焦りが見えてきた。この裁判が長引くようなら購入は見合わせるとのファンドの意向が出だしてきた為だ。

「相手方の提示金額は1000万円、これ以上、負担するつもりはないとの判断です」4回目の和解期日で譲歩してきた金額を篠原弁護士は、倉橋と山田の前で言った。「弁護士の立場として、これ以上、引き伸ばすことは危険だと判断します」
「そうだね。ファンドが降りれば、かなりの損害が生じるだろうからね」倉橋も、かなり苦慮した。「どうやら4億円以上で、この土地売っているみたいだから、この裁判が長引いて取引が取り消されたとすれば、契約不履行で、少なくとも2割の8000万円以上の損害。併せて例の金融筋にも相当搾り取られるだろうから、多分、1億では済まない」
「私としては、もう、充分だと思っています」山田が、倉橋と篠原弁護士のやり取りを見ながら言った。「多少、残った不動産もありますから、やり直しはきくと思っています」
「そうですね、私も山田さんに同意見です」篠原弁護士は考えながら言った。「残りの財産を危険にさらすことは弁護士としてお勧めできません」
「そうなんだけど、山田さんが受け取った手付金は4000万円。それも測量費や開発申請費用などを負担しているから、実質、手にしたお金は3000万円位でしょう」倉橋は、今回の詐欺事件による理不尽さを感じていた。「中間で、誰がどのように利益を上げたのかは分からないけど、実質、3億6000万円以上の利益を上げている。明らかに詐取されたお金であるのに法律的には救われることがない。納得のいかない話だよね」
その後、3人は、しばらく想定する相手方の出方を考え、最終的に倉橋が篠原弁護士に言った。「とりあえず、倍額の2000万円。調整で1500万円なら和解しましょう」

裁判は、和解となれば最終的には駆け引きである。山田側は、最初、2億5000万円の和解金から始め徐々に金額を下げ、相手方は300万円から始まって1000万円まで引きあがった。ただ買い手がついていなければ、ここまで和解金も吊上がっていなかっただろう。詐欺事件の場合、巻き込まれれば損害金の回収は難しい。詐欺師は、その困難さを熟知した上で詐欺に取り掛かるから、狙われたら最後である。今回、山田は、全部を失う前に気がついたから良かったが、普通、ズルズルと最後まで奪い取られてしまうのが普通だ。山田の場合、相続税の支払いに困り、助けてもらったつもりが騙され、その損害を取り戻そうとした結果、権藤に騙された。多分、その後、権藤からいろいろと理由をつけて、追加の不動産の差し入れを求められるか、また別の人物が現れ、残りの不動産を高額で売る話を持ち込まれるか。いずれにしても、結果は同じだ。全部を失うまで、詐欺られてしまうのだ。

裁判は、倉橋の思ったとおり、結局、和解金1500万円で決着が付いた。もちろん、本件土地の買主、抵当権を付けていた金融筋の損害賠償は、一切しないという条件付だ。
ただ、不動産の場合、これで終わりではない。詐欺であっても契約書は存在し、所有権は移転されている。税務署との協議が必要である。
結局、それも、倉橋主導のもと、顧問税理士と打合せを重ね、事実関係を正確に報告し、実態的な納税で済ませることができた。
詐欺の入口はほんのちょっとした油断だが、後処理に費やす時間と労力は甚大だ。その根底にあるのは、常識を逸脱した利益。詐欺師はいろいろな手口を使って、ありそうな話を作り出すプロである。特に不動産取引などは、一般人には経験がないことが多いから、騙されやすい。今回のような山田のような家庭においては、先祖代々の不動産を守ろうとする意識が、逆目になってしまうものなのである。
ちょっとした、プロの存在。残念ながら、山田の傍にはいなかった。
最初の詐欺の場合、収容による売買だからプロが介在すれば、難しい話ではなかったし、権藤の詐欺の場合、そもそも所有権の移転を最初に行うのであれば、断っている。
かような詐欺的な話は、引っかかる前に電話一本で事態はまったく変わるものである。


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