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不動産コンサルタント 倉 橋 レ ポ ー ト 2009年5月号
         
 
取り込み詐欺! 巧妙な手口 (14)

「取り急ぎ、和解に向けた話合いを行いますか」篠原は、倉橋に言った。「もちろん、当事者ではないので、拒否することは可能ですが」
「いや、それは得策じゃないよ」倉橋は、電話口でいろいろと考えながら慎重に話した。
「この土地に巨額な抵当権が付けられている所を見ると、今となっては、長期で争って売却のチャンスを逃せば、とてもこんな金額で売れる土地じゃない。取りあえず、話だけは先生のほうで聞いておいてもらって、取引がポシャらないように、話を繋ぐ努力だけはしておいてください」

倉橋は、当時、ファンドの不動産取引の異常性を感じ取っていた。本来、ファンドというのは、他人の資金を使って投資をするわけだから、高い収益性を求めて仕入れ金額を最大限圧縮しなければならない筈であるが、当時は、ファンドバブルとでも言おうか、ファンドの連中は、資産拡大を求めて買い続けなければ彼らの収益に繋がらず、かなり高値でも買い続けていたのが実態である。

IRR(インターナル・レート・オブリターン 内部収益率)、つまり、不動産の将来価値を盛り込んだ投資計画に無理があり、欧米で開発された金融工学がもたらす投資概念が、日本の市場には向かないものであることを外資系ファンドの連中が思いもよらなかったことで、高い購入相場を繰り広げていた。海外の建物賃貸借契約は定期建物賃貸借契約が普通であり、賃料の値上げを借主と協議して定めることはない。契約の満了時期に貸主が一方的に次の賃貸条件を通知すれば足り、その条件に借主が不服であれば、再契約をしないで出てゆくしかない。つまり海外の不動産投資においては、常に相場に基づいて賃料等を値上げできるわけだから、必然、物価上昇率に応じた賃料相場を維持でき、不動産価格もそれに準じて上昇させることができる。これらを前提で当時の外資系ファンドは、将来価値を割り出した投資指標で日本の不動産の購入を繰り返していた。日本の普通建物賃貸借契約における「法定更新」などという概念はほとんど知らずに、である。

「とりあえず、この土地は、彼らに買ってもらいましょう」倉橋は篠原弁護士に伝えて、電話を切った。
その後、信託会社から保全抗告がなされ、抵当権者、土地購入者から損害賠償請求が山田側に対して提訴された。とりあえず損害賠償請求事件については、保全抗告の決着を見てからということで期間は延期されたが、かなり厳しい状況に陥った。
権藤の会社に騙された人たちは、破産管財人が開示した債権者リストを基に個別調査し、分かった。彼らから事情を聞いて見る限り、案の定、権藤は詐欺師であった。
不動産を騙し取る手口は巧妙であり、母親が教職についていたことで相手を信用させ、次々と不動産を騙し取っていた。
例えば、近隣の再開発をするという名目で高い価格を相手方に提示し、手付金相当額で所有権を移転させ、代替物件の提供で占有移転を行う。その代替物件には、高額な抵当権が付されており、騙し取った土地は転売して利益を得ながら、代替物件の抵当権は抹消されない。結局、その代替物件は競売に掛けられて、騙された人は、やむなくその不動産から退去せざるを得なく、結局、住まいを失っている。かような手口で騙された人は多い訳だが、誰もが権藤の破産、および死亡によって請求権すらなくなってしまっている。
山田も、本来なら同様で、現状の日本の法律では、なんら保護されることがない。
「このお金、どこに流れたんだろうね」倉橋は、秘書の小林、そして山田、篠原弁護士との打ち合わせの席で、溜息混じりに言った。「この詐取した金額の総計って、10億できかないよね」
「私も、何処かに隠しているとは思うんですよ」篠原弁護士は、倉橋の意見を肯定した。「とても病人に使えるお金じゃないでしょう」
「お父さん、権藤の前に、お金、騙し取られていた訳じゃない。ひょっとして、その組織に召し上げられたんじゃないかな」倉橋は、かような不動産詐欺のプロフェッショナル組織があるのではないかと懸念していた。「所有権と抵当権、占有権などのそれぞれ特徴を利用した素人には分かり辛い法律を巧みに使っている所をみると、それなりの専門家がバックについて動かしてるんじゃないの」
「本当に、馬鹿なことをしました」山田は、自分がしたことではないのに、父が行ったことで責任を感じていた。「私がもっと、父とのコミュニケーションをとっていれば、こんなことにはならなかったと反省しています」
「そうなんだよ。世の中、山田さんのような人は本当に多いんですよ」倉橋は、山田を慰めるように言った。「資産家や地主はさ、相続のことは常に考えておかなきゃいけない。親子でいつも話し合ったり、知恵を出し合ったりしていれば、山田さんのお父さんも、一人で苦労しなくて済んだのかも知れない」
「多分、父も、かなり最初の事件でストレスを感じていたのかもしれません」山田は、下を向き、後悔しながら言った。「結局、父は、家族に苦労をかけまいとして、私にも母にも相談せず、一人で悩んでいたのだと思います」
「今度、山田さんの時には、後継者と相談しながら、資産継承を図って行かなきゃね」倉橋は冗談ともつかないことを山田に言った。
「もちろん、その時は先生にいろいろ相談に乗って貰います」山田は明るい表情で言った。
「ただ、先生のほうが私より、随分、年が上だから、先生には長生きしてもらわないと」山田は、そんな冗談を言い、談笑しながら今後の計画をみんなで話し合った。
「とりあえず、2億5000万円の和解で持ち込みましょう」倉橋は、篠田弁護士に言った。


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