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不動産コンサルタント 倉 橋 レ ポ ー ト 2009年4月号
         
 
取り込み詐欺! 巧妙な手口 (13)

「倉橋先生、訳のわからない人たちから嫌がらせのような電話が来ていますが、大丈夫でしょうか」
信託物件の所有権移転禁止の仮処分が裁判所に受理されてから間もなく山田の自宅には脅迫めいた電話が数多く鳴った。「今回の取引に絡むものだというだけで、身分を明らかにしないんですが、この仮処分を取り下げないと、大変なことになるみたいなことを言って来ています」
「ま、脅しでしょ」倉橋は、落ち着いて説明した。「権藤も、中岡不動産も、札付きのような人たちですから、彼らの利害関係人が慌てて連絡してきているだけです」
倉橋は、およそ、各方面から情報を仕入れており、権藤は、反社会勢力の組織に所属した経験があり、この詐欺事件を巻き起こした時点では組織から離脱していた事実が判明していた。
「彼らは脅しはするかもしれませんが、実際に、実力行使をすれば、どうなるかを自分たちが良く知っていますから、山田さんは裁判所にお願いしていますので、どうぞ裁判所に言ってください、というようなことを伝えてくれれば、それで構いません」山田所有の不動産には信託登記がなされており、間もなく、ファンドに売却される直前であった。

かなり手口は巧妙であり、権藤も中岡不動産も、山田が気付いたときには、すべてことは済まされている状態にしてある。例えば、権藤に対する損害賠償の請求がなされ、それが認められたにしても、支払能力のない権藤に対する債権であるから無意味だし、また土地の返還請求が成功したところで、土地の価値以上に設定されている抵当権があるわけで、その抵当権を外すことができなければ、いくら所有権が帰ってきても、競売等で処分されてしまうから意味がない。

「篠原先生、信託受益権への差押えはできませんか」苦肉の策で倉橋は、篠原弁護士に電話をかけて話した。「山田さん、このままだと精神的に潰れちゃうかもしれない。普通の人は、ああいった連中から連絡が来るだけでも疲れちゃうもんね」
「そうですね。私自身も、そういう提案をしようと思っていた所でした」篠原弁護士も、倉橋と同様の考えがあり、本件の長期戦は望んでいなかった。「やっぱり、倉橋先生の言ったとおりの連中のようですね。ただ救いは、信託登記になっていますから、出口的にはファンドに売却する方向だと思います。信託受益件を押えて、買主側から慌ててアクションがあると助かりますけどね」

信託登記がなされている以上、その信託に瑕疵があればファンドの組成などできない。所有権移転禁止の仮処分だけでも有効だが、売買代金などの受け渡し等の信託受益権を差し押さえてしまえば、資金も動かすことができず、本件土地の買主が炙り出されてくるのではないかと倉橋も篠原も考えていた。

「ここまでくれば、山田さん、リスクも何もないよね。取りあえず、怯まないでやれることをやろうよ」倉橋はちょっと気弱な篠原に、明るく励ますような口調で言った。

そもそも今回の事件は、土地自体、既に第三者に所有権の移転がなされ、おまけに更なる第三者に信託登記までされてしまっている手遅れ的な法的手続きであるのに、裁判官も異例な取り扱いをしてくれたものである。その上、信託受益権の仮差押えなど、篠原弁護士も倉橋自身も、かなり難しいものと考えていた。

「倉橋先生、ビックニュースです」いつもメールのやり取りをしていた篠原弁護士から倉橋の執務している港南台の事務所に電話が入った。「驚かないでくださいね。信託受益権の仮差押えが通りました」
「それって、篠原先生、よほど自信がなかったんだね」倉橋は、笑いながら篠原弁護士に言った。「しかし、よく裁判所が認めたよね」
「先日、先生からお話があった例の山田さんのところへの嫌がらせの電話の件を話したのが良かったのかもしれません」自分で手続きをしながら、自分自身も、意外に簡単に裁判所が認めてくれたことを、未だ信じられない様子で篠原弁護士は言った。「それに、先日、山田さんに書いてもらった陳述書も、心証は良かったと思いますけど」

今回の事件は、あまりにも現実にかけ離れた詐欺事件であった為、裁判所も慎重に審理を繰り返し、仮処分手続きにも消極的であったが、その分、事実関係を立証する為、陳述書や証拠書類もかなりの数を提出していた。事件が分かり辛く、損害額が巨額な為、裁判所もようやく篠原がその都度書類等を提出しながら説明を繰り返してきたことで、今回の事件の全容が分かってくれたのではないかと考えられた。

「それは、篠原先生の粘り勝ちだな」倉橋は、率直に篠原弁護士に言った。「普通、無理でしょ。ま、先生、山田さんにも先生から説明してあげてください。喜びますよ」

街は、桜が芽生えだした時期だった。冬は、いつまでも続かない。
トラブルに巻き込まれている最中は、盲目的に憶測の範囲で暗闇の中を彷徨ってしまうものであるが、気がつくと何かのきっかけで解決策が見出され、必ず終局するものである。弁護士や倉橋のような不動産コンサルタントは、いつも問題の解決にあたっており、鳥瞰的に解決に向けての明かりが見える瞬間がある。
このとき、山田自身が気付いたかどうかは分からないが、倉橋と篠原弁護士には、近い将来、急速的にこの事件が解決できる見通しがつくことを肌で感じていた。

「倉橋先生、きましたよ、連絡が」篠原弁護士から電話が入った。
「どう、買主は」倉橋も、結構、楽しみにしていた朗報であった為、会議の最中であったが、電話口に出て対応した。
それは、当時、結構、名が通った外資系のファンドであった。


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