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不動産コンサルタント 倉 橋 レ ポ ー ト 2008年10月号
         
 
取り込み詐欺! 巧妙な手口 (8)

「中岡不動産、この土地を担保に4億円近い抵当権をつけて2社から借り入れをしていることになっている」登記簿謄本の乙区欄、甲区欄をめくりながら倉橋は青ざめた。「おまけに信託登記をした上で、さらに第三者に、所有権移転の仮登記まで済ましているじゃない。」立山弁護士も事情を飲み込んで沈黙した。「こいつら、プロだな」
「それって、どういうことなんでしょうか」山田はその異常さを読み取り、不安そうに言った。「すでに、遅かった、ということですか」
「ま、山田さん、さっき、腹を括って貰ったんだから、やるしかないね」立山弁護士は倉橋と目を合わせて、苦笑いしながら言った。

本件は権藤の会社と中岡不動産が共同で特別有料老人ホームの許認可の申請を行っており、権藤の会社では許認可の申請すらできない状況であったものを、共同申請人である中岡不動産が主体的に行っているようであった。従って、山田側から見て中岡不動産は、権藤の会社から所有権の移転を受けていたにしても第三者ではなく、当事者の一方であるとの主張で戦うつもりでいたのだが、実質的には、さらに第三者に転売されようとしている事実がわかった。おまけに過大な抵当権をつけて、すでに借り入れという形で資金移動は済んでおり、仮に、山田が売買契約の無効を主張し、返還請求が認められたにしても、この借入金を権藤の会社か中岡不動産が返済しない限り、この抵当権の抹消は出来ず、債務不履行が生じれば競売にかけられてしまう。結局、山田側が勝訴したところで、何のメリットもない状態なのだ。
ことの事態は緊急性を要する訳だが、反面、我々が行おうとしている保全手続きによってこの土地を購入した第三者や貸金業者が蒙る損害額は甚大であり、万一、こちらの主張が通らなければ、その損害は、山田に対して請求されうる可能性が高くなってしまったことを意味する。また、そもそも裁判所で、この第三者らが蒙る損害と山田の父が騙された経緯の過失を比較して、保全手続きを認めないという判断も、充分、ありうることになる。

「山田さん、これを知ったところで後には引けないじゃないですか」倉橋は、山田に言った。「これで彼らの意図はわかった訳ですから、戦うしかないですよ」

この事件では、権藤らの行っていた特別有料老人ホームの許認可など、山田の父を騙す為の道具だったに過ぎない。彼らの目的は最初から山田の父を騙し、この土地を転売し、その代金を詐取する目的だったのである。さらに詐欺の手口は巧妙で、転売が遅れようとも、詐欺による利益を確保するために、借入金という形で資金回収を早めていた。騙された山田の父が、この土地の転売先の第三者に対抗できず、さらに抵当権者にも対抗できない法律を活用した巧妙な詐欺の手口だった訳である。

「きっと、権藤の会社は、最後には倒産か破産して、債務の支払いを免れる手口ですよ」倉橋は、言った。「最初からこの権藤の会社など、詐欺のために存在している会社でしょう」

世の中には、権藤の会社のように詐欺を目的として会社を設立しているケースは多い。多くの詐欺事件では、必ず「儲かる」話が先行し、その話は、いかにも信憑性があるように誤認させる手口が潜んでいる。よく手品などで使われる方法で、左手に隠しているコインに目を向けさせないように右手で何かを行い、そこに意識を集中させる方法がある。詐欺はかようなマジックに似ており、今回のケースでは、権藤の会社の実態や信用性などに意識を向けない為に、いかにもありそうな儲け話を作りこんでいた。特別有料老人ホームの許認可に価値があり、許認可があれば1億円以上、土地が高く売れるという幻想を植え付ける。そして山田の父の意識を許認可の申請に目を向けさせ、詐欺の実態に気付かないように誠心誠意仕事をしているふりをして時間を稼いでいる。その間、この土地を有利に転売し、利益の最大化を図るという手口である。また併せて、山田の父が早期に詐欺行為に気付くことの保険として、この土地の評価額いっぱい抵当権をつけて借り入れを起こし、先に資金回収を図り、その金銭は何処かに移動して隠してしまう。そして被害者の山田の父が気付いたときには、適当な理由をつけて、申し訳ないことをしたが既にお金はないから返せないといって逃げてしまうという結末が待っているだけである。

今回のケースなど、最初に所有権の移転をするという話なのだから、まずは権藤の会社の業務内容、規模や信用力、資産の背景などを調べていれば、こんなことにはなっていなかったし、そもそも専門家などに相談していれば、今回のようなあり得ない話に乗ることはなかった筈だ。
ただ実際には、詐欺で騙される当事者というものは、欲目に振れて、あり得ない話に乗ってしまうものなのである。山田の父は相続税納税のために、一度、土地売買で詐欺にあってしまい、その損失を取り返そうと今回の話に乗ってしまったわけだが、詐欺のケースにおいては、かような損失の取り戻し的な心理状態のときに陥りやすい。

ここで特筆しておきたいのは、詐欺事件の場合、刑事事件で取り扱ってくれる可能性は、極めて低い、ということである。世の中には、多くの詐欺事件が存在しているが、加害者が検挙されて裁かれるほうが稀なのだ。

テレビなどで騒がれている事件などは被害者が多大であり、社会的に容認できないものだけが検挙されている訳で、今回のようないかにも個人的事情で騙され、その被害額が多大であっても「それって、儲けようと思って騙されたんでしょ」という言葉で済まされ、警察も、裁判所も、真剣に取り扱ってくれない。また仮に加害者が捕まった所で詐欺事件の刑料は軽く、すぐに刑期を終えて社会に復帰してしまうから世の中の詐欺事件は減ることがない。
むしろ詐欺師は、手を変え、品を変え、社会に餌食を探して、浮浪しているのだ。

この打合せの翌日、まずは弁護士の連名で権藤の会社と中岡不動産に対し、土地売買契約の解除通知を内容証明郵便で送付することにした。


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