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不動産コンサルタント 倉 橋 レ ポ ー ト 2008年9月号
         
 
取り込み詐欺! 巧妙な手口 (7)

「これって、山田さん、リスクが覚悟できます?」その夜、午後9時をまわってから、倉橋、秘書の小林、そして山田と打ち合わせに出向いた立山法律事務所の立山弁護士は言った。
「仮差押手続きなど、この権藤の会社が所有しているのであれば問題はないんだけどね」いつものように、弁護士とは思えない明るい態度で不安げな山田に説明した。「この権藤の会社が転売した相手方の会社が、本当に第三者だったら、山田さん、逆に訴えられる可能性あるけど、大丈夫?」
「訴えられるって、どういうことですか」山田は顔色を変えて言った。
「損害賠償請求です」立山事務所の山川弁護士が立山の隣で解説した。「残念ですが、山田さんは、この第三者に対抗できない立場です」この山川弁護士は、実は秘書の小林の大学時代一学年先輩で、小林は司法試験の一次は受かったものの、二次試験で不合格となり、山川のほうは、大学卒業後、しばらくして司法試験をパスしており、偶然、この事件がきっかけで小林と山川は再会することになった。「つまり、この第三者の会社に損害が生じた場合、その損害の賠償を山田さんに請求する権利が生じてしまうと言うことです」
「そんな、理不尽な」山田は、焦った表情で山川に言った。「騙されたのは、うちの方なんですよ」
「まあまあ、山川先生。法律的なことは、一般の人には理解しきれないですよ」倉橋が、間に入るように言った。法律とは、無知なものを救わない。いわゆる知らないほうが損をする世界であり、特に、今回のような詐欺事件の場合、騙された人は非常に不利にならざるを得ないのである。「先生、それは承知の上です。山田さんに、これから法律を勉強してもらおうとは思っていません。その第三者の会社は、どうも権藤と繋がりがあり、第三者であるとは言い切れない会社ですから、然程、心配はないと思います」
倉橋は、権藤の会社が開発許可の申請をする際、第三者の会社、中岡不動産と連名で申請を行っている書面を立山弁護士に示して説明した。
「倉橋さん、共同で開発許可申請を出しているからって、第三者でない証明にはならないと思うんだけど」立山特有の口調で怪訝な顔で言った。
「いや、先生。実は、この中岡不動産を良く知っているひとから事情は聞いておきました」倉橋は全国で講演活動を行っており、宅地建物取引業協会の実務研修や宅地建物取引主任者の免許更新の講演なども引き受けていたから、不動産業者とのパイプは太い。立山の事務所に来るまでの間、あちこちに連絡を取って、必要と思える情報は、荒削りではあるが入手していた。「この中岡不動産って、業務実態は殆どなく、どうも反社会勢力の手下のような仕事をこなしているようです」
「え、そうすると、今回の裁判って、危険ですか」山田が怯えるように言った。
「いや、むしろ裁判で決着をつけたほうが、安全です」倉橋は落ち着き払った口調で、山田を宥めるように言った。「彼らは、さすがに裁判所に乗り込んでくることはないし、この民事事件で組織を動かせばどうなるかは、彼らが一番知っていることなんですよ」
「倉橋社長が、そう考えるのであれば、ま、あとは山田さんの意向ですね」山川弁護士は、事務的な口調で言った。「あとは経済的な問題として、保証金の額でしょうね」
「そこは、裁判所との交渉だろうな」倉橋は立山弁護士の顔を見て、笑いながら言った。「あとは、先生の交渉力ってことじゃない?」
「ん〜、そうくると思った」立山は、快活に笑いながら「やってみるしかないけど、債権額が多額だから、保証金も多額になると思うよ」と言った。

本件のような緊急性を要する債権を保全するには債権仮差押命令の申し立てを行うことになる。このような場合は、仮に相手方に非がないのに債権を差し押さえられてしまえば、今度は相手方に損害が生じてしまうことになるから、裁判所は、いわゆる「踏み絵」のように申立人から保証金と称して、後日、争いになった時の損害の保全を行うことになっている。

「とりあえず、仮差押命令の申し立てだけ、至急、行ってください」倉橋は、立山ら弁護士に伝えた。「保証金などについては、山田さん側のできる範囲で検討してもらえば良いことです。場合によっては、債権額を減額して調整をとれば良いんじゃないですか」
「ま、そうだよね」あっさりと立山弁護士が言うと、山川弁護士、そして山川弁護士の部下である篠原弁護士に指示を与えだした。「篠原君が本件の窓口で取り纏めをしてください」
「立山先生、それは駄目です」倉橋は、率直に苦情を言った。「本件は、私自身が動くことを約束して受任しています。今回のケースは、普通の裁判ではない可能性がありますから、立山先生自ら動いて頂きたい」
「はいはい、倉橋さんが付いて来ている段階で覚悟はしていますよ」立山は、笑いながら言った。「私と倉橋さんが考えをまとめる。うちは山川、篠原で事務を行い、倉橋さんのほうは小林君が山田さんとの事務的な連絡を行う、こんなんで、どう」
「それなら結構です。この事件、どうも嫌な予感がするんです」倉橋は、今回のような組織的な詐欺事件のシナリオについて、単純なものではないと考えていた。バックが大きければ大きいほど尻尾はつかめない。我々、刑事ではないから別に事件の白黒をつける必要などないが、同様の手口で全財産を失っているひとの相談にものっていたが、結局、取り返しの付かない結果になっても、相手はなんら懐が痛まない仕組みが出来上がっているケースが多いのだ。「小林君、さっき頼んでおいた登記簿謄本、入手、できた?」
「あ、はい」あまり整理されているとは思えない分厚い鞄から4枚の登記簿謄本を取り出し「さっき、出掛けにパソコンで取っておきました」と、立山弁護士と倉橋の間に置いた。
その乙区欄、つまり抵当権等の記載がなされている部分をみて2人とも目を見合わせた。倉橋も、立山も、そして弁護士全員、本事件の特異性を読み取り、ぞっとした。


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