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不動産コンサルタント 倉 橋 レ ポ ー ト 2008年6月号
         
 
取り込み詐欺! 巧妙な手口 (4)

山田の父は、結局、小川と権藤に相談するしかなかった。
最初に権藤に相談した所、慌てた様子で、早速、小川のベンツに同乗して権藤が山田の実家に現れた。
「で、税務署の職員は、譲渡税の他、何か言ってました?」権藤は、電話で話した続きを切り出した。
「いや、譲渡税のこと以外は、これといったことは言ってませんでしたが」何か、他にも言われることがあったのかな、と考えたが、こちらはつい興奮して電話を切ってしまったから、よく覚えていない。
「ま、これも何とかしましょう」権藤は、その他のことの指摘を受けなかったことを確認すると「譲渡税は、いくらなんですか」と切り出した。
「いや、金額については言ってなかったと思います」山田の父は答えながら「そういえば、登記簿で確認したというようなことを言ってたから、多分、売買代金までは知らないんじゃないかと思いますよ」
「わかりました」権藤は登記簿という言葉に敏感に反応したように見えたが、すぐさま山田の父に言った。「私が直接税務署に話に言ってきますから、安心してください」「それは、譲渡税を払うってことですか」権藤がどのように話をつけるのかに興味を持った山田の父は言った。
「それは実際に申請している手続きを説明して、課税されるべき譲渡の日付を実際に残金を支払ったときにしてもらうように私から話して納得してもらいますよ」
その日、権藤と小川が帰ったあと、山田の父は、外出した。

特に趣味もなく、地主の後継者として、ただただ家を守ってきただけの生活に、嫌気が差していた。普通のサラリーマンのように、会社帰りに焼鳥屋で飲んで会社の悪口を言ったりするひとたちが羨ましく、また、先日、小川に連れて行かれたような高級な鮨屋で酒などを飲むなどしたことがなかった。ただただ親から受け継いだ土地を守りながら農業をまじめに行ってきただけの人生。資産家と呼ばれには程遠い、質素な生活。
自分は何の為に生まれてきて、そして死んでゆくのか。
今回のように納税で苦しめられることになった原因は、果たして自分にあるのだろうか。また詐欺にあって、お金がないことは証明できるのに、詐欺で失った財産にまで課税させられるという理不尽な現実。そもそも、相続するたびに50%の相続税を課せられ、そのたびに借金しては支払い、支払いが終わる頃、いや終わる前にまた相続税が課せられる現実。
いっそのこと、財産なんていらない。自分のことを苦しめるだけの財産など、いかなる価値があるのだろうかとも考えるようになってしまっていた。

その夜、山田の父は20万円程度、現金をつかんで家を出た。
電車に乗って、そして歓楽街をうろうろしたが、遊び方がわからない。小川に連れて行ってもらったような鮨屋も覗いてみたが、一人で入る勇気は起きなかった。結局、サラリーマンが屯するような居酒屋に入って、適当なつまみを頼んで、安酒を飲んだ。
隣に座ったサラリーマン風の人たちと無目的で無責任な話をしながら飲む酒は、安酒ながら、ひと時の楽しみとなった。たぶん港湾労働者だろう隣の人たちは、山田の父のたわいない話に同情し、面白おかしく酒を飲んでいた。山田の父は、かつて酒など飲まず、どちらかというと酒飲みなど嫌いなほうであったが、この日はご機嫌で、周囲の人たちに酒などを振舞っていた。

その後、日常のストレスを解消する為に、そとで食事をする日々が続き、家族はいままで何の遊びもしないで家族のために働いてきたのだから好きにさせてやろうと、あまり細かいことも言わなくなっていった。度重なる夜遊びが続き、そもそも酒に弱かった山田の父は、急激なアルコールの摂取によって、体が蝕まれていった。

「たびたび恐れ入ります、山田さんですか」聞き覚えのある声の主は、いつもの税務署の職員だった。「その後、納税のほうは、いかがですか」
「なに言ってるんだ、貴様」山田は、すっかり忘れていたが、既に納税の件は、権藤が話をつけてくれていると思っていた。「権藤というものが、おたくに行ったろ」
「はい、権藤さんはきましたが、納税はされていないのですから、こうしてお電話を差し上げているんですが」明らかに懸念ある反応だった。
「だって、まだ許認可の申請手続き中で、売買代金を受け取っていないんだから、納税などできる筈があるわけないだろ」
「山田さん、こういっちゃ何ですが」明らかに不快の念をこめて税務署の職員は言った。「譲渡が完了されていない土地を、第三者に転売することってあるんですか」
「なに?転売?」山田の父は、混乱した。「権藤の会社に便宜上、売却した形になっているが、第三者に売ったということは聞いてないぞ」すっかり頭の中は、パニックに陥っていた。
「山田さん、私ね、税務署の職員ですから詳しい事情などわかりません」税務署の職員は淡々と電話口の向こうで山田の父に言った。「先日も申し上げたとおり、私どもでは登記簿謄本に記載された内容で確認するしかないんです。既に、山田さんの土地は権藤さんの会社から他の会社に売却されてしまっていますよ」
「そ、そんな馬鹿なことがあるか!」山田の父は興奮のあまり、咳き込みながら税務署の職員に訳のわからない罵声を浴びせかけた。「う、うぅ・・・・。」
受話器が自然に手から落ち、山田の父は、そのまま前倒しに倒れこんだ。
「どうしました、山田さん」さすがに驚いた税務署の職員が、電話口の向こうで山田の名を呼んだ。「救急車を呼びます。しっかりしてください」


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