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不動産コンサルタント 倉 橋 レ ポ ー ト 2008年5月号
         
 
取り込み詐欺! 巧妙な手口 (3)

後日、小川と権藤が用意してきた契約書には土地売買代金が2億5000万円、特別擁護老人ホームの許認可費用が1億円となっていた。この事業の許認可が取れることが前提の契約書で契約書上には、この許認可が取れない場合は白紙解約ができることになっておりその際には、権藤の会社が負担した費用は、一切請求することができないとなっていた。

また契約と同時に所有権を移転することは便宜上のことであり、これも、許認可が取れない場合は、その時点で所有権移転登記を原状に戻すことになっていた。あわせて、契約書のほかに念書というのが入っており、これにも許認可が取れない場合は無条件で所有権を移転した登記は速やかに山田側にもどす、その費用はすべて権藤の会社が負担することになっていた。

「いやぁ、助かります」山田の父は、この許認可の話で土地代金のほかに1億円が余分に入ることで、かつて騙され、秋山らに与えられた損害を取り戻すことができると思った。
「ところで、手付金で5000万円、頂きますよね」山田の父は仮に許認可が取れない場合は、この手付金は返さなければならない、その場合、5000万円は納税で消えてしまうから、どのようにして返せばよいかが心配になり、権藤に尋ねた。「このお金は、譲渡税の納税に使ってしまうから、すぐ返せといっても返せないかもしれませんよ」
「いや、お父さん。その時はその時で考えましょうよ」権藤は、優しい口調で言った。「私は素人じゃありません。万一のときは、次の手を考えますから、5000万円を返さなくても良い方法を考えますよ」
「それはそれは、本当にありがとうございます。」山田の父は、本気でそう思った。
「いや、我々、福祉の仕事をしていると、人助け自体が仕事のように思えることって多いんですよ」そんなことを言う権藤が、いかにも善良な人のように山田の父には見えた。「困ったときには、お互い様じゃないですか」

果たして、この土地売買契約は談笑のうちに円満に行われ、契約の直後に手付金として支払われた5000万円で、譲渡税の納税を済ませることができた。

その後、設計士と称する人や土地家屋調査士等が自宅に現れ、いろいろな書面をもってきては、山田の父に署名や捺印を求めてきた。
その都度、説明は受けていたが、所詮、素人の山田の父に理解できるはずもなく、別段、細かいことも聞かずに求められるまま、署名、捺印を繰り返していた。むしろ、この手続きを行っていることで、仕事が進んでいることを確認できているように感じて、今度こそは間違いない取引ができると信じていた。

山田の父のもとには、いろいろな書類がファイルとなって権藤から送られてきて、そのメモ書きにも詳細な報告がなされ、1年くらいの間、確かに許認可の取得に向けて手続きはとられていた。山田の父は、我がことのように、許認可の取得を待ちわびていた。

「山田さんのお宅ですか?」聞き覚えのある声の主は、またしても税務署の職員であった。「譲渡税のことで、お聞きしたいことがあるのですが」
「なんだおまえ、譲渡税は払ったじゃないか」山田の父は、怒鳴るように言った。「延滞税も含めて、去年、支払ったじゃないか」
「あ、すいません。勘違いしないでください」税務署の職員は、落ち着いた口調でなだめるように言った。「今回のお尋ねは、昨年売却した土地の件なのですが」
「昨年・・・?」しばらく考えたが、その土地は権藤に売った土地だと気がついた。「それは、まだ売ってない。特別養護老人ホームの許認可を取るために便宜上、所有権を移転しただけだ、売ってない」
「山田さん、おっしゃる意味がわかりませんが、法務局には登記原因が売買となっている以上、今年に申告して譲渡税をお支払いいただく必要があります。
「なんだと、貴様。おまえらのおかげで、どんどん土地がなくなっていく。先祖代々の土地を売却しなければならなくなった気持ちが、貴様にわかるか」山田の父は、興奮して言った。「だいたい、売買契約したからといって、まだ代金をもらってないのに、貴様、それでも税金を取ろうって言うのか」
「山田さん、落ち着いてください」電話口の向こうでは、きっと、顔色変えずに言っているのだろうと思える冷淡な口調で税務署の職員は言った。「所有権の移転が終わっている以上、譲渡税は支払っていただかなければなりません。規則ですから」
「だいたい、お前らが勝手に決めた規則じゃないか」山田の父は冷静な判断ができる状況になかった。「おれの家は、先祖代々、相続税を支払ってきたんだ。それなのに、親父から受け継いだときに莫大な相続税を支払わなきゃならなくなって、土地を売却せざるを得なくなって、泣く泣く売却して相続税を支払った。税金を支払う為に土地を売却したのに、こんどは譲渡税だ。前回、既に支払ったんだから、もういい加減にしてくれ」もちろん、そんなことが通じる筈がないことくらいはわかっているが、山田の父は税務署の職員に不満をぶちまけた。
「山田さんの言い分も、わからないではないんですが」税務署員は事務的に言った。「これは規則ですから、山田さんだけ特別扱いすることはできないんですよ」

山田の父は、地主の家に生まれたことを後悔していた。なにも贅沢などしていない、夫婦で旅行などもしたことはない。親から受け継いだ農地を細々と耕し、生計の殆どはアパートの収入で賄ってきた。子供を育て、厳しい家計を、時にはアルバイトをしながら支えてきた生活。サラリーマンの友人は、すべて面白おかしく生活しているように見えていたが、相手からは資産家として羨ましがられるという誤解を受けた生活。何も、楽しいことなどなかった。 なぜ、自分だけが、こんな目に会ってしまうのか、想像すらしていなかった。


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