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あの「バブル経済」は大手銀行と生命保険会社を詐欺集団と化した!Part5


  「これは、やはり、解約した方が良いように思うのですが...。」
いろいろと検討した結果、私は「オーナー」に言った。

  平成5年の夏も終わり、今後の方針を検討するために立川弁護士の事務所でオーナーと家族、 そして私も含めて集まることになった。
事前に立川弁護士には「事実関係の調査」と「交渉」を依頼し、「三菱銀行」と「明治生命」には文書をもって通知してもらっていたが 「三菱銀行」からは一応、連絡はあったが交渉には一切応じてもらえず、呆れたことに「明治生命」からは、 結局、電話の一本もなかった。 もちろん「裁判」になることは覚悟できているが、さて、この時点で、この「変額保険」を「解約」する方がよいか、 そのまま「継続」した方がよいのかは、非常に難しい判断である。

  当初の借入は「1億8000万円」、知らないうちに「6000万円」追加融資されて、融資残は「2億4000万円」。 定期預金に回されて残っている金額が「約2000万円」あるから、差引き、この「変額保険」のために支払った金額は 「2億2000万円」である。そして、いま解約すれば「1億円」程度が戻ってくることになるから、 結果的に「1億2000万円」の「損」が確定することになる。 逆に「解約」しない場合は、毎月、利息だけで「100万円」も払い続ける訳だから定期預金の2000万円は20ヵ月で 底をつき、更に「6000万円」を借り入れれば毎月の返済は「125万円」に脹らみ、追加の「6000万円」も 48ヵ月で底をつくことになる。
つまり、約5年半で借金は3億円に脹らみ、この時点で保険金が「2億8000万円」おりたとしても「2000万円」の赤字となる。

  言い換えれば、オーナーが5年以内で亡くなることを想定すれば、 この保険を継続した方がよいとも思えるし、5年以上生存することを想定すれば取りあえず「損」を確定させておいた方がよいことになる。

  更に開き直って考えれば、どうせ「1億2000万円」損するのであれば、「4億円」まで借り込んでしまうことも、 また考えられるが、当時の日本経済の状態を考えれば、これもかなり危険な行為であるといえる。 この時点で「オーナー」の年齢は「67歳」。「日本人男性」の「平均余命」からすれば、このオーナーの場合、 あと13年(80歳)もあるのである。 そんなことを考え、私も立川弁護士もやはり「安全性」から考えれば「解約」することが順当であると考えたが、 その結論自体、オーナーに対して、多額な債務を背負わせることになる。

しばらく、事務所内は重たい空気が流れ、しばし沈黙が続いた。

「お金のことだけじゃ、ないと思うんです...。」
しばらくたって、沈黙を破り「オーナーの妻」は、突如、涙ながらに言った。

「裏切られたってことが、許せないんです。」
オーナーも私も、また、立川弁護士も息を詰まらせながら聞いた。

「明治生命とは長い間、ずっとお付き合いしてきて、何かって言うと少しでも保険に入ってあげたりして、 いつも助けてあげていたのに、こんな時に謝るでもなく、言い訳するのでもなく、まったく、素知らぬ態度でいられるってことが、私は許せないと思うんです。」

例えば、私が「明治生命の社員」であったらどのような態度をとっただろうか、また「ひとりの人間」として、 このような場合、どのような態度をとっただろうかを考えたとき、この「明治生命」のやったこと、その「後処理」のこと、 そして今回の「何の連絡もよこさない」という態度のすべてを私も立川弁護士も、同様に許せないという気持ちはまったく同感であった。

「たしかに損したお金も大変なお金だけど、私たち家族は、みんな明治生命の社員を家族のように信用してきて、もし、 間違いであれば、間違いは間違いで謝って、つぎのことを考えれば良いことだと思うんです。 それなのに、今回のようなことになったからといって、べつに謝る訳でなく、弁解する訳でもなく、 おまけにこちらから話し合いたいといっているのに何の連絡もよこさないってことが許せないんです。 ひとの付き合いって、少なくとも私は、そういうもんじゃないと思うんです。」

更に強い口調でいった。

「お金のことだけじゃないんです。騙されたことでもないんです。長いこと付き合ってきたひとに裏切られたってことが、 許せないんです。」

しばし、沈黙は続いた。

  「会社」とは「人間」の集合体である。 たぶん、「明治生命の社員」は、この「変額保険」が本当に「相続対策」になるものと教育され、 このオーナーの為になるものと勧めたのだろう。 しかし「バブル経済」の「崩壊」というアクシデントが起き、「相続対策」どころか、結果として顧客に「多大な損害」を 与えてしまったことは「事実」である。
  それも、当初から「相続対策になるよい保険だ」「土地を担保にさえ入れればそれでよく、オーナーにとって何の負担のない保険だ」といって勧誘し、 このケースの場合、結果として、たった4年で「1億2千万円」も「損」させてしまったのである。

  少なくとも「会社」として、 「そこに働くもの」として、その「事実」を受け止めた上で、善処するべきではないのだろうか。
  かつて「悪徳商法」の代名詞のように騒がれた、「豊田商事事件」の場合も被害者のほとんどは「高齢者」である。 事件の内容はご存知の通り「金取引」をめぐる「高配当」のうたい文句で、実際には金の現物は購入せず、保証書を発行しては、 「年寄り」の「なけなしの金銭」を「騙し取った事件」である。当時マスコミは、この事件の「卑劣さ」を毎日のように報道し、 結末は皆さんご存知の通りである。

  さて、なぜここで「豊田商事事件」を引き合いに出すかと言えば、私自身、この「変額保険の事件」は、「豊田商事事件」の それと比較しても、さらに「卑劣な行為」であると考えるからである。

  被害者は「高齢者」が多いことは、どちらも一緒であるが「豊田商事事件」を前者とすれば、前者の「被害者」は、多少、 「高配当」という「儲け話」にのってしまったという「若干の過失」が認められるが、後者の場合「相続対策」が目的であり、 被害者側に「儲ける」などという意識は更々ない。

また前者はなけなしの金銭といえども預貯金などの「もともとあったお金」の被害に対し、 後者は土地はあってもお金のないひとたちが、「変額保険加入」に際して調達させられた「借金の金利」の被害である。

また、前者の企業は社会的信用などまったくなく、常識では考えられない「高配当」の架空話を使った詐欺事件であるから注意すれば騙されないが、 後者は最初から商品の内容などの説明ではなく「大手生命保険会社」と「大手銀行」が組んで「ブランド力」を活用して行った 「詐欺行為」である。そして更に付加えれば、後者は「相続税」の納税に対して真剣に悩みをもったひとたちに付け込んで 行った悪質な行為である。
 もともと比較するのも変な話であるが、どちらが「卑劣な行為」であるかを比較すれば、どう考えても後者の方が 「卑劣な行為」ではないか。

 ただ、違うことは「変額保険の被害者」の多くは、「土地持ち」であるということで「国民感情」が 高まらないことと、「加害者」は、「政府とつながっている」ということである。

  「こんな保険、解約しましょう。」 しばらく傍観していたオーナーは、妻の意見を聞いて、わりとあっさりした口調で言った。 「お金の方は、諦めます。明治生命も三菱銀行も、もう付合う気はありませんし、これ以上、家族のなかでガタガタするのは嫌なんです。」

  「しかし、損害額の1億2000万円はたいへんな負担だと思いますが。」不動産投資等での1億2000万円はさほどの金額ではないが、 今回の損害は負担だけで何も残らないものである。その辺に誤解があると判断を誤ると思い、私は念のため聞き返した。

「解っています。お金の方は最悪、土地を売ってでも何とかします。」
それは淡々とした口調のなかに、潔さを感じた。
「ただ、勘違いしないでください。お金を諦めるのと明治生命や三菱銀行を許すのとは違います。 裁判は最後までやりたいと思います。その結果、騙された私らが負けて、お金が返ってこないのであれば諦める、 そういう意味なんです。」

  その翌日、本件「変額保険の解約」の書類を「明治生命」に請求したところ、その手続きは「速やか」に、 そして「事務的」に行われ、平成5年10月1日、「三菱銀行」のオーナーの預金口座に「1億259万円」が事務的に、 そして「無機質」に振込まれてきた。

  かくして、長く、そして険しい「争い」は始まった。

  この事件は、当時、「相続対策」として有効な手段であるともてはやされた「変額保険」に関するものである。 現在も各地で訴訟が起こされており残念な事に被害者のほとんどが最高裁で敗訴している。
本「倉橋レポート」では、なるべく事実を忠実に伝えるため裁判で提出された相手方の「準備書面」等の主張も参照して レポートさせて頂いております。


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