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あの「バブル経済」は大手銀行と生命保険会社を詐欺集団と化した!Part3


倉橋さん、これは「難しい事件」ですよ。 たぶん「最高裁」まで争わないと、「結論」は出ないと思うなぁ。

  とにかく一刻を争うことだからと、親しくしている「弁護士」の「立川弁護士」に無理やり「時間」を取ってもらい、 今回の事件の概略をかいつまんで話した。

  「相手は大手の明治生命と三菱銀行だし、この変額保険だって、大蔵省が認可して販売しているんだから、 そう簡単に裁判で和解はしてこないだろうね。」

  立川弁護士とはもうずいぶん長い付き合いであり、私が主宰する当社の立ち上げのときも、忙しいさなか、 真夜中まで「建物賃貸借契約」の「法律整備」のお手伝いをしてもらい、その頃からの「仲」である。

  当時は、私も立川弁護士も若かったし、お互い「多忙」を極めていたから、だいたい、打合わせといえば「午後10時」とか 「11時」から始め、終わるのはいつも「午前2時頃」になってしまうのだから、いまから考えると気違い沙汰である。 それでもお互い翌日の「スケジュール」はいつもいっぱいだったから、打合わせが終われば食事もせずに真っ直ぐ帰る、というのが常であった。
  それでも一度だけ、夜中の2時頃に「中華街」の入口にある「台湾料理」の店にいったことがあり、そのとき初めて 「仕事以外」の話をしたことがある。

「私ね、不動産屋さんは勉強が足りないと思うな。」

私のビールに付き合って一杯だけ呑んだ立川弁護士は、ふと、そんなことを言った。

「我々、弁護士の商売はそれなりに勉強して資格をとって、それから、さらに5年くらいは居候弁護士(見習い)をやって、 それで、はじめて世の中に出てお金が貰えるようになるんだよね。」

何か、いつも仕事のことでしか話をしたことがなかったせいか、とても身近な存在に思えた。

「でも、不動産屋さんは学校出て会社に入れば、すぐ商売になるから、しだいに勉強しなくなっちゃう。 倉橋さんのように熱心なひとが増えれば、この業界も良くなると思うなぁ。」  

バブルの最中、「不動産業者」が「お金」に浮かれている頃のことである。

突如「不動産仲介」の仕事から離れ、「企画」の仕事を経て、不動産(資産)管理と不動産コンサルティングの将来性に賭けて 「無我夢中」になっている私に、慰めるようにいった、彼のこの言葉は印象的であった。

最悪、「動機の錯誤」で「無効」を主張し、当初に支払った「金額」を「返還」してもらえませんか。

  「動機の錯誤」とは「民法95条」の規定であるが、簡単に「解説」すれば、「ひと」が「認識して行った行為」と、 その「認識して行った行為の結果」が「事実」と一致しないとき、その「行為」は「無効」である、というところだろうか。
とにかく、「思ったこと」と「事実」が違うんだから「無効」だ、といえるのがこの「規定」である。
今回の場合などは最初から「明治生命」に「土地を担保にして保険に入れば相続対策になる」、 といわれて加入した「変額保険」が「相続対策」どころか、「保険会社」のために「借金」をさせられ、 結果として「損」だけする「保険」なのであるから、当然、その「事実」を知っていれば、明らかに加入しない。 当然、「動機の錯誤」は主張できる、と私は思った。

「うぅん、しかし動機の錯誤だと、被害金額で一番大きな銀行金利分が請求できないな。」

私の意見を熱心に聞いた後、しばらく考え、立川弁護士は言った。

「これは、詐欺でしょう。詐欺による損害賠償でやったほうがいい。」

詐欺の場合、簡単に解説すれば「故意に相手を欺き錯誤に陥れる」、ということだが、「錯誤」と違うところは「詐欺による損害は請求できる」ところだ。 「明治生命」、あるいは「明治生命の社員」は「相続対策」のためになるからといって、この「変額保険」を売ったのだから、 当然、この保険が「相続対策」になっていなければならないし、また、せめて、この「変額保険」を勧誘する際、 この「保険」に加入する場合と、加入しない場合とで、どの位「メリット」があるのか、また「リスク」はどれだけあるのか、 などを説明する義務はあるはずである。 仮に、何の根拠もなく「相続対策」になるからと勧めたり、リスクについて説明していなければ、これは明らかに「詐欺」である、といえる。

「先生、勉強だと思って手伝ってくれない?」

このような事件の場合、訴訟を起こしても勝てるとは限らないから、 オーナーにとって弁護士費用などがさらに負担となってしまう可能性がある。

「何とか、安くしてもらえませんか?」 「いつものことだから、覚悟してるよ。」

私の持ち込む事件は、いつも難しいものばかりなのに弁護士費用を値切るのだから、先生としても「嫌な客」の筈であるが、 気持ちよく引き受けてくれた。 私も、立川弁護士も、難しければ難しいものほど、やる気が出てくるという妙な性格であり、その日、「当事者」の 「依頼」を受けていないにも拘わらず、あれこれといろいろなことを想定して作戦を練った。

「もしもし、所長さんはいらっしゃいますか。」

録音テープをセットして、私が傍受する受話器の中から「オーナー」の声が初夏を迎えた「せみしぐれ」とともに、 イヤホンから弱々しく聞こえてきた。
  当初より「土地を担保にして保険に入れば相続対策になる」ということで、この「変額保険」に入っているから、 当事者に「大きな借金」を抱えたという認識はなく、もともと「明治生命の外交員」とは長い付き合いであったから、 彼女を信じきり、「明治生命」と「三菱銀行」のいうなりに「書類」にサインしてしまっているので、 これといって「証拠」らしい「証拠」は残っていない。
このような場合、「相手方」が警戒する前に「証拠」を集めるしかないから、取りあえず、当時の担当していた「所長」 の転勤先をつきとめ、電話をかけ、その会話を録音することにしたのである。

「どうも、ご無沙汰致しております。」

電話にでた相手方は、こちらからの電話を察知していたかのような口調でいった。 「ちょうど、いま、三菱銀行の支店長からも電話を頂いたところでして、すぐ、ご連絡しようと思っていたのですが.....。」気まずさが、明らかに声から伝わってきた。 「今回の件ですが、後任の所長にですね、本社へつなぐように指示しておきました。」

こちらは用件を告げてないのに、一方的に言いわけがましいことを話し出した。

「それであのぅ、本社にですね、ファイナンシャルアドバイザーっていう部門があるんです。 で、相続対策の専門分野と申しますか、まあ変額保険の専門分野でございまして、今回のようなときにですね、 まっ、ご相談にのるという部署なのですが、そこのものが近いうちにですね、伺うつもりなんです。」

マニュアルを読むように、所長はいった。

  「でもね、本社の意向は私も聞きますけどね、所長さんに聞きたいんです。」
  「何を、ですか。」
  「何で、こんなのに入らされちゃったのかって。」

悔しそうに、オーナーはいった。

「どうしてこんなのが、相続対策になるのかって.....。」
「それは、その当時もお話ししたじゃないですか。」

かなり困惑した表情が電話の向こうから伝わってきた。

「あのぅ、借入れそのものについてはですね、相続税評価から控除されますでしょっ、だから相続対策になるんです。」

傍受している私が、耳を疑いたくなるような言葉であった。

「ええっ? だけど借入れすれば、どんどん利子がついて、いまでは調べてみたら毎月100万円も払ってるんだから、 うちじゃ困っちゃうですよね。」

呆気に取られたオーナーは、自分自身を何とか納得させられる言葉が出てくることを期待して所長に言った。

「死んだときは確かに控除されるかもしれないけど、生きているうちは、この借金、どんどん増えちゃうじゃない。」
「ええ、でも、それは銀行との問題です。」

この事件の真相は「無知からくる犯罪」であると、私は思った。
「相続対策」と称して「3億円」近い「変額保険」のような「リスク」の高い「商品」を売りつけた「張本人」が、 根本的な「相続対策の技法」を身につけていないのである。
  「借金」をすれば「相続対策」になるという根底に「資産を目減りさせない」というものがなければ「借金」して 「遊んじゃう」のと、かわりはない。 仮に、遊んじゃった「お金」であれば仕方がないとも思えないではないが、この「変額保険」は、今回の場合、 「加入しただけ」で「1億2000万円」の「損」になってしまったのだから、到底、諦めがつくものではない。

    「専門家」が「素人」を騙すことは、当然、あってはならないことであるが、今回の場合、「素人」が「専門家」 のように振る舞って、いかにも「相続対策」になるように説明し、あろうことか「善良な素人」を騙し、 おまけに「銀行」からとてつもない「お金」を借りさせ、愚にもつかない「保険」を「3億円分」買わせたのである。

  それから「30分」位、この所長と「オーナー」とのやりとりを聞きながら、あの「バブル経済」の真っただ中、 公然と行われてきた無責任な「詐欺行為」を目の当たりにし、初夏を迎えた暑い日はすっかり暮れかけ、本当なら、 心地のよい涼しさの筈であるが、背筋の寒さは決して心地のよいものではなかった。


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